このところ、メディアや雑誌などで紹介されることが増えてきた「エゴマ」。最近では、種子を搾った「エゴマ油」に、必須脂肪酸であるa-リノレン酸が豊富に含まれることから評判となり、にわかに脚光を浴びている。
飛騨ではエゴマをあぶらえ、と呼び、種子を炒ってすりつぶし、青菜やジャガイモに和えて食べたり、タレとして五平餅や焼飯につけて食べるなど、身近な食材として利用されている。
「子どもの頃から、おやつに出された草餅に、あぶらえのタレをつけて食べることが好きだった」という田口さん。「18歳で上京した時に、東京にはあぶらえがないことに気づいたんです」と笑う。故郷の味が忘れられず、東京にもタレを送ってもらっていた。帰省したときは、駅前で買った五平餅を、バスの中で食べながら東京に向かうのが習慣となっていた。
ある時、五平餅を売っているおばあちゃんと世間話をしていたところ、本物のあぶらえを使った五平餅を作っているところが少なくなってきたと聞いた。高齢化で、あぶらえを栽培する農家も減ってきているのだという。
「そんなことになっているのか。この味を残すために自分に何かできることはないか」とバスの中で五平餅を食べながら、思いを巡らせていた。とりあえず、あぶらえを栽培することは出来そうだと考えたものの、農業の経験はなかった。
そこで、行政の窓口や農家を始め、あぶらえ組合、さらには中山間農業研究所などに相談をしながら、最初の1年は東京と飛騨を往復しながら手探りで始めた。その後、妻にも理解してもらったことから、2年前に家族で飛騨高山にUターンしてきた。
「今年で4年目になりますが、まだまだ栽培の技術が未熟で、しかも昨年は猛暑と豪雨に見舞われ、思ったほど収量もありませんでした」。
以前、収穫したあぶらえを知人に配っているときに、あることに気づいた。「年配の方には『こんな貴重なものを』と有難がられるんですが、若い人からは、どう利用すればいいかわからないと言われ、このままでは、あぶらえの食文化が衰退してしまう」と危機感が募ったという。
今はちょっとした健康ブームで全国的に需要はあるが、一時のブームで終わらせることなく、新たなブランドとして「飛騨のあぶらえ」を全国に発信したいと考えた田口さん。
「飛騨といえばあぶらえ、ということを広めたいんですが、地元に根付いてなければ説得力がない。家庭菜園で栽培して、春に種を蒔けば夏頃には葉っぱが使える。実を搾れば、新鮮なエゴマオイルを使うことができる。そんな、家庭のレベルでできることを提案していきたい」。